遺贈寄付を行うにあたって、遺言の登記に至るまでの手続きをこなすまでに、精神的ハードルを感じられていることと思います。
少しでも負担を軽減しようと、遺言信託の利用を検討されている方にとっては、
「遺言信託って、費用はいくらかかるの?」
「遺贈寄付で活用するとしたら、注意点はあるの?」
といった疑問は、気になるところではないでしょうか。
遺言信託というサービスの概要と、遺贈寄付で利用する際の注意点をまとめました。
目次
遺言信託とは?遺言の作成から執行まで、信託銀行などが代行
遺言信託とは、金融機関が遺言作成のサポートや、遺言の執行を代行してくれるサービスの総称です。
「自分が亡くなった後に、残された家族が揉めないようにしておきたい。」
「遺言の登記に至るまでの手続きが分かりにくいので、専門家の助けを借りたい。」
「財産の変動に応じて、定期的に遺言内容を見直したい。」
といったお悩みを抱えている方には、打って付けのサービスです。
ちなみに名称に信託と入っているので、誤解されやすいですが、法的には信託とは無関係です。
遺言信託でどんなことができる?
遺言作成前から遺言執行後まで一貫して、同じ窓口でサービスを受けることができます。
遺言信託には、遺言の作成・保管・執行の3つのプロセスがあります。
遺言の作成
あなたの相続事情や後世への想いに合わせて、遺言作成の事前相談が受けられます。
もちろん遺言信託だけではなく、他の金融商品や不動産に関する業務も取り扱っていますので、資産全体を俯瞰したアドバイスを貰うことができます。
遺言の保管
遺言信託を通じて作成された公正証書遺言の原本は公証役場で、正本は金融機関で保管されますので、紛失や改ざんの心配はなくなります。
また家族構成の変化や、財産の変動に応じて、遺言の書き換えもサポートしてくれます。
遺言の執行
あなたが亡くなられた際には、財産を引き継ぐことになる方々の前で、金融機関が説明(遺言の開示)をしてくれます。
その後、財産の分割や名義変更などの煩雑な手続きを代行してくれますので、確実に遺言に残した内容が実現されます。
どの金融機関が取り扱っている?
信託銀行が提供していることが多く、最近は商業銀行(いわゆる銀行)や証券会社も取り扱っています。
信託銀行では商業銀行の機能に加えて、不動産の信託や相続関連業務も行えますので、より幅広いニーズに応えることができます。
- 商業銀行:銀行業のみの取り扱い
- 信託銀行:銀行業と信託業を兼務
といった違いがあります。信託業には金銭信託や土地信託など、長期に渡って資産を守るという性質があります。
費用はいくらかかる?
遺言信託を利用する上で、費用がいくらかかるのかは重要なポイントです。
三菱UFJ信託銀行・三井住友信託銀行・みずほ信託銀行の3行で「作成費用」「保管費用」「最低遺言執行料」を表で比較してみました。
大手信託銀行3行の遺言信託手数料
信託銀行 | プラン | 作成費用 | 保管費用 | 最低遺言執行料 |
三菱UFJ信託銀行 | 30万円型プラン | 32.4万円 | 年5,400円 | 162万円〜 |
100万円型プラン | 108万円 | 年5,400円 | 75.6万円〜 | |
三井住友信託銀行 | プランⅠ | 32.4万円 | 年6,480円 | 108万円〜 |
プランⅡ | 86.4万円 | 無料 | 32.4万円〜 | |
みずほ信託銀行 | プラン30 | 32.4万円 | 年6,480円 | 108万円〜 |
プラン100 | 108万円 | 年6,480円 | 32.4万円〜 |
- 作成費用:遺言作成時に発生するコスト
- 保管費用:遺言保管中にかかり続けるコスト
- 最低遺言執行料:遺言執行時に最低限発生するコスト(遺言執行料は財産総額に応じて変動)
「サービスを受けられるのは、財産がいくら以上の方のみ」といった制限はありませんが、費用対効果に見合っているのかについて、契約前に金融機関の販売員と相談することになります。
遺言信託について税理士法人横浜パートナーズ
遺贈寄付で、遺言信託の活用が有効なケースは?
先の章でご紹介した遺言信託は、遺贈寄付を行う際にも有効なのでしょうか?
メリットとデメリット
メリット
- 大手金融機関が提供するサービスの為、いざ相続が発生しても、安心して財産分配を一任できる。
- 公正証書遺言を確実に作成するお手伝いをしてくれるので、ほぼ間違いなく遺贈寄付を完了できる。
デメリット
- 遺言信託は金融機関への手数料がかかるので、その分、残されたご家族や非営利団体に回せるお金は減ってしまう。
- 金融機関の販売員が、非営利団体に明るい可能性は高くなく、寄付先を決めていない段階で相談してしまうと納得のいく遺贈寄付ができない恐れがある。
遺贈寄付で遺言信託を活用するとしたら、メリットとして挙げた安心感と確実性、デメリットとして挙げたコストと納得感を天秤に掛けることになるでしょう。
他の手段と比較すると?
もし遺言信託を利用せず、ご自身で公正証書遺言を作成された場合は、必要な費用は公証役場に支払う手数料のみです。
また弁護士にお願いする場合は、法律事務所や弁護士ごとに料金体系が異なりますので、個別で相談となります。
以上を踏まえると、遺言信託で遺贈寄付を行うことに恩恵があるのは、生前から懇意にされている金融機関があり、寄付先が明確となっているケースと言えるでしょう。
相続トラブルにならないため、押さえたい3つのポイント
遺言信託を活用して、遺贈寄付をする場合、どんなことに注意しなければいけないのでしょうか?
相続トラブルにならない為に、押さえておきたいチェックポイント3つをまとめました。
ポイント1:寄付先と金融機関が提携しているか
まず最初に遺贈寄付先の団体を決定しましょう。
その際に寄付先の団体が、遺言信託をお願いすることになる金融機関と、提携しているのかどうかを確認しましょう。
提携していなかったとしても、遺贈寄付自体は問題なく行えますが、相続時の手続き及び情報伝達を考慮すると、提携を確認できた方が良いでしょう。
ポイント2:遺言信託の手数料を確認する
実際にあなたのケースだと、総額でいくら手数料を支払うことになるのかを確認しておきましょう。
保管手数料は生前に毎年かかり続けることになりますし、執行手数料は遺産総額が大きければ、その分高くついてしまいます。
一般的にお葬式にかかる費用や、火葬・納骨費用は相続税の控除対象となりますが、遺言信託にかかった費用は控除対象にはなりません。
費用対効果を考慮された上で、利用されることをオススメします。
ポイント3:サービス対象外となるケースを確認する
遺言信託で金融機関にお任せすればそれで安心かと言われると、一概にそうとも言い切れません。
遺言信託ではカバーできないケースも、一部存在します。
相続税など税務
相続発生時の相続税申告といった税務に関することは、金融機関では執り行うことができません。
ご自身でお手続きをされるか、別で税理士の方に依頼する必要があります。
家族間のトラブル
また遺贈寄付を行う際にも、残されたご家族と非営利団体との間でトラブルが発生した際には、遺言信託を契約した金融機関が遺言の執行を辞退または拒否することがあります。
その場合は、別で弁護士の方に依頼してトラブルの解消をお願いしなくてはなりません。
ご自身のご家庭の状況なども勘案しながら、遺言信託を活用するのか、はたまた手続きの一部を士業の方にお願いしておくのか、事前に検討されることをオススメします。
大切なご家族や、ご自身の寄付への想いをちゃんと残せるような、最期のお金の使い方が実現する為の一助になれば嬉しいです。