「故人の想いを、社会に還元したい」「生前の感謝を、寄付という形で伝えたい」
そんな方に注目されているのが、相続した遺産の一部を寄付するという行動。
遺産を寄付するときに注意するポイント、税制優遇や手続き、支援先の選び方などをまとめました。
目次
遺産の寄付は、「遺贈」と「相続財産の寄付」の2パターン
「遺産の寄付」と一口に言っても、実は2つのパターンに分かれます。
パターン1:亡くなった方ご本人が「遺贈」する
故人ご本人が遺産を寄付することを決めて、生前に遺言書などで寄付先や金額などを明記。
亡くなった後に、遺言書にしたがって遺産の一部または全部が寄付されるパターンです。
一般的に、「遺贈寄付」や「遺言による寄付」と呼ばれます。
(参考:「遺贈寄付とは?相続の進め方や税金の優遇、支援先の探し方」※執筆中)
パターン2:遺産を相続した方が寄付をする
もう1つは、遺産を相続するご家族などがその一部を寄付するパターンです。
故人の想いを踏まえる場合もありますが、寄付先や金額などを決めて手続きをするのは、相続した方ご自身。
一般的に、「相続財産の寄付」と呼ばれます。
この記事では、この相続財産の寄付について解説していきます。
事例紹介:70歳で病逝した夫の遺産を、iPS細胞の研究資金へ
この相続財産の寄付ですが、現実にどんな方が、どのような理由で、何の団体や活動に支援をしたのでしょうか?
「AERA(アエラ) 」2017年 6/19 号で取り上げられていたのは、「難病のため70歳で逝った夫の想いを、後世に伝えたい」と、京都大学のiPS細胞研究所に寄付した事例。
iPS細胞の研究が「同じような難病患者の方々の役に立つように」と願いを込めて、遺産を相続したご婦人がその一部を研究資金に拠出したそうです。
闘病生活の中で夫は、山中教授のiPS細胞の研究が、自身の難病治療に役立つ可能性を期待していたという。
「『命を亡くすのと、病気が解明されるのは、どっちが早いのかな。たぶん自分はダメだろうな。』そう思いながら、わずかな期待は持っていたのだろうと思う。」と女性は振り返った。
(中略)iPS細胞研究への寄付には、亡き夫への深い愛情が込められているのだと実感した。
この方の他にも、「故人の想いを、社会に還元したい」「生前の感謝を、寄付という形で伝えたい」など、寄付する動機はさまざまです。
相続税は節税できる?一定の条件で、税制優遇の対象に
遺産の寄付を検討する方から、よく質問をいただいたのが、「税金」について。
遺産を相続すると、相続税を支払わなければならないことがありますね。
寄付によって、その一部が減額することがあります。
相続税のルールについては、詳しくは法令や他の記事などを参照いただきたいですが簡単に言うと、特定の法人に寄付をすると、相続税の課税対象分の金額から寄付金額を差し引くことができます。
この税制優遇の対象として認められているのは、国や地方団体のほか、以下の「特定の公益法人」です。
・公益社団法人・公益財団法人
・国立大学法・公立大学法人
・一部の学校法人
・社会福祉法人
・認定NPO法人 など
(国税庁WEBサイトより)
仮に相続財産が6,000万円で、法定相続人が配偶者と子ども3人だったとします。
その場合、遺産にかかる基礎控除額は3,000万円+600万円×3=4,800万円。
6,000万円-4,800万円=1,200万円が相続税の対象となり、相続した方がそれぞれの分を支払わなければなりません。
もし相続をした方がその一部を寄付すれば、その分だけ相続税の課税対象金額は減ります。
つまり、一定以上の資産を相続する方にとっては、「相続した遺産を寄付すると節税になる」と言えるのです。
寄付先探しから相続税の申告まで、手続きは3ステップで
相続財産の寄付を具体的に検討する場合は、どのように進めればよいでしょうか?
税金以外については、これといったルールがある訳ではないですが、初めての方にも分かりやすいように、3ステップに整理しました。
ステップ1:寄付先を探す
「何の活動を支援したいか?」「どんな方々の役に立ちたいか?」を明確にしたうえで、当てはまる団体を探してみましょう。
故人が生前に付き合いのあった団体や、知人の紹介などで決める方法が思い浮かびますが、意外に多いのが、WEBサイトで検索して初めての団体にコンタクトをとるケース。
活動内容や団体概要などはWEBサイトに載っているはずですが、年次報告書をダウンロードできるサイトや、遺贈・相続財産の寄付の資料請求を受け付けているサイトもあるので、情報収集してみるとよいでしょう。
数十万円以上などまとまった金額を支援する時には、活動をしているスタッフの方に「面談や見学などで、話を聞けないか?」を尋ねてみてもよいかもしれません。
ステップ2:寄付をする
ステップ1で寄付先が決まったら、手続きに入りましょう。
ここで事前に注意しておくべきは、寄付先と金額については課税当局に、故人が亡くなってから10ヶ月以内に申請をしなければならないこと。
そして、申請の際には領収書が必要になることです。
団体によっては、相続財産の寄付を受けたケースは多くはありません。
手続きをスムーズに進めるためにも、寄付金の支払い方法や領収書の発行にあたって必要な情報など、念のため事前に確認しておいた方がよいでしょう。
支払い方法は、銀行振込や郵便振替、クレジットカードなどいずれの方法でも構いません。
ただし、上記の「10ヶ月以内に領収書を添付して申告」というルールに添うために、期日がギリギリに迫っている場合は、クレジットカードなど決済代行会社を経由する入金方法ではなく、銀行やゆうちょ銀行の口座に直接に送金した方が安全です。
(たとえばクレジットカードでの支払いの場合、寄付を申し込んだ日ではなく、寄付を受ける団体側にカード会社から入金があった日付で領収書を発行することになっているからです。)
ステップ3:相続税の申告をする
ステップ2でも解説したように、相続が発生してから10ヵ月以内に、税務署に寄付をした旨を申告します。
寄付先から受け取った領収書を添える必要があるので、「寄付を受けた旨」「寄付を受けた年月日」「寄付財産の明細」「寄付財産の使用目的」が記載されているかを、念のため確認しましょう。
おまけ:確定申告でも、税制優遇の対象に!
相続財産の寄付は、所得税や住民税の寄付金控除を受けられます。
(住民税については、特定の公益法人でも控除の対象になっているか?は自治体によって異なります)
確定申告のときには、忘れずに記載するようにしましょう。
税制優遇を“二重に”受けられて、お得ですね。
支援先は、どう選べばよい?オススメの団体と合わせて
最後に、支援先の選び方です。
以下の3つのポイントを、特に気にかけるとよいのではないでしょうか?
ポイント1:寄付を役に立ててくれるか?
「信頼できる団体か?」や「資金を効果的に活用しているか?」から、「相続した本人や家族の想いと合っているか_」「故人の遺志を反映している活動か?」などさまざまなポイントがあると思いますが、重視するポイントを整理して調べてみましょう。
ポイント2:税制優遇の対象になる法人か?
先ほども述べたように、税制優遇の対象になるのは国や地方自治体のほかは、認定NPO法人や公益財団法人など「特定の公益法人」です。
当てはまっているか?を国税庁のWEBサイトなどでチェックしましょう。
ポイント3:寄付金の受け入れや管理を、しっかりと行なっているか?
税制優遇を受けるためには、領収書の発行などNPO法人側の協力が必要です。
まとまった金額を寄付する場合は、使い道もしっかりと確認したいでしょう。
寄付金の受け入れや管理に力を入れている団体だと、手続きや事後報告などもスムーズに行いやすいでしょう。
最後に:オススメの支援先
相続財産の寄付に限ってではないですが、オススメの団体もテーマ別にいくつか紹介しています。
よければご参考になさってください。