人身売買の問題について、ネットやテレビで耳にされた方も多いことと思います。
「人身売買なんて、まだ現代に残っているの?」
「そんな不条理なことが放置されているって本当なの?」
今回は、そうした疑問をお持ちの方へ、人身売買の現状を調べました。
目次
人身売買の現状は?実例をチェック
世界で起きている「人身売買」の実例を2人、ご紹介させて頂きます。
実例1:バングラデシュで被害に遭ったアンワラさん
BBCの記事にミャンマーで家族を殺害され、バングラデシュに避難する中で性被害に遭ったアンワラさん(仮名)の実例が取り上げられていました。
境遇
- ロヒンギャ難民として、ミャンマーから隣国のバングラデシュに避難していた。
- ワゴン車に乗った女に「安全だから」と一緒に来ることを誘われた。
事件当時
「それからしばらくして2人の男の子が連れてこられた。私が言うことを聞かないので、ナイフを突きつけられ、おなかを殴られた。それから男の子たちに強姦された。セックスを拒否しているのに、2人はやめなかった」
ロヒンギャ少女たち、人身売買で売春に、BBCが実態取材
実例2:インドの売春宿に売られたプリヤさん
インドで売られてしまう子どもを守る活動をしている認定NPO法人かものはしプロジェクトに、プリヤさん(仮名)の実例が紹介されていました。
境遇
- 両親に収入がなく、生活に困窮していた。
- 地元の村の男2人にだまされて、自宅から1,500kmも離れた売春宿に連れていかれる。
事件当時
「高給なよい仕事がある。これで家族を助けることができる」とだまされ、
子どもが売られる問題とはー認定NPO法人かものはしプロジェクト
(中略)逃げようにも逃げるすべをもたない
定義と被害者数から、問題の全体像を掴む
先の事例から「人身売買」が、被害者を精神的にも社会的にも大きく傷付ける問題である、ということがお分かり頂けたかと思います。
それでは、どのようなケースだと「人身売買」に該当するのでしょうか?
人身取引と人身売買を比較すると・・
人身売買とよく似た言葉に、人身取引があります。
人身売買の定義を捉えるために、まず人身取引の定義を押さえましょう。
人身取引とは?
「人身取引」とは、搾取の目的で、暴力その他の形態の強制力による脅迫若しくはその行使、誘拐、詐欺、欺もう、権力の濫用若しくはぜい弱な立場に乗ずること又は他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われる金銭若しくは利益の授受の手段を用いて、人を獲得し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、又は収受することをいう。
人身取引議定書ー警察庁HP
人身取引は、国際組織犯罪として定義される言葉で、専門機関等でも広く使用されます。
人身売買とは?
一方、人身売買は人身取引よりも、狭義で使用されることが多いです。
人身売買 | 人身取引 | |
時期 | 2000年以前も使用されていた | 2000年人身売買禁止議定書採択以降使用 |
背景 | 歴史的に人を売買・取引した搾取を連想可能 | 歴史的な搾取の経緯を不問 |
領域 | 女性の性的搾取、女性に対する暴力(VAW)を中心に言及する傾向 | 性的搾取だけでなく強制労働、隷属、臓器売買を含む |
定義 | 定義不明確。搾取的な労働や臓器売買など新たな課題をとらえきれない | 国際組織犯罪と定義し犯罪対策として国際社会の協調行動とりやすい |
(出典:人身売買禁止ネットワークHP)
調べてみたところ、「人身売買」は扱っている機関によっても解釈が異なるようで、明確な定義がありません。
先述の事例紹介にあったアンワラさんやプリアさんのケースは、どちらかというと人身売買に近いようです。
世界の被害者数
人身売買はアンダーグラウンドの世界で行われていますので、正確な被害者数は把握できておらず、調査機関によっても報告される数字が異なります。
- 移民の人身売買(密輸)の数は250万人(UNODC・国連薬物犯罪事務所)
- 世界で約250万人が人身売買され、その80%を占めるのが女性と子ども(アムネスティ)
- 年間の人身売買被害者の数は50万〜200万人(UNIFEM・国際連合婦人開発基金)
仮に年間250万人の被害者がいると仮定すると、約12秒に1人のペースで被害者が生まれている計算です。
ここまで読んで下さった短い間にも、女性や子どもが性的な行為を強要されています。
現状が変わりにくいのは、性産業として成り立っているから
なぜ人身売買がなくならないのか、それは売春宿のオーナーや仲介業者(ブローカー)にとって、旨味のあるビジネスになってしまっているからです。
市場規模は年間3兆4,000億円
国連人身売買根絶フォーラムでは、人身売買の市場規模は全世界で年間316億ドル(約3兆4,100億円)と推定されました。
加害者は人身売買の際の渡航費用などを理由に被害者へ借金の返済を要求したり、故郷の家族に仕送りができるなどの嘘を吐いて、被害者の心と体がボロボロになるまで搾取している、といったことも確認されているそうです。
加害者意識がなく、買えてしまう
認定NPO法人ラリグラス・ジャパンのHPに、ネパール人少女の需要が高い理由が紹介されていました。
- 肌の白さに執着する国民性・・・インド人の顧客は、インド女性よりも色白であるモンゴリアン系のネパール人少女を好む。 インドの身分制度であるカーストの四種姓を表すヴァルナは皮膚の色を指し、色白ほど高位とされるため、肌の白さにことのほか執着すると考えられている。
- 処女性の重視・・・インド国民の大半を占めるヒンドゥー教では、処女性がたいへん重んじられている。このような宗教的な背景があって、処女の雰囲気を持つ少女が好まれる。
- HIVに対する認識の低さ・・・HIV感染を懸念する顧客は、娼婦としての経験が浅い少女であれば、HIVに感染している確率が低いと考えていることも、幼い少女が好まれる理由である。
上記のように、買う側に罪の意識がないことも、問題の根を深くしています。
買う人がいなくなれば人身売買もなくなりますが、知らず知らずのうちに市民が加害者になっていることもあり、問題の解決が遅れてしまっています。