祖父母の介護、病気の親のサポート、兄弟のお世話など・・・子どもがケアを担うことをどう捉えれば良い?ヤングケアラーについて考えてみよう

 家庭内の大人だけでは、家事や家族の世話を担いきることが難しく、子どもがその役割を担うことがあります。その子どもたちを「ヤングケアラー」と呼んでいます。

 

ヤングケアラー」ってどういうこと?どれくらいの人数の子どもがヤングケアラーなの?

ヤングケアラーとは?

 子ども家庭庁はヤングケアラーを以下のように定義しています。

本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っているこどものこと。

① 障害や病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている。
② 家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている。
③ 障害や病気のあるきょうだいの世話や見守りをしている。
④ 目を離せない家族の見守りや声かけなどの気遣いをしている。
⑤ 日本語が第一言語でない家族や障害のある家族のために通訳をしている。
⑥ 家計を支えるために労働をして、障害や病気のある家族を助けている。
⑦ アルコール・薬物・ギャンブルの問題を抱える家族に対応している。
⑧ がん・難病・精神疾患などの慢性的な病気のある家族の看病をしている。
⑨ 障害や病気のある家族の身の回りの世話をしている。
⑩ 障害や病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている。

 家事や、身体的な介助だけでなく、相手の辛い気持ちを聴くなどの精神的なサポートや、安全に行動できるよう見守ることなども含まれます。また、一言にヤングケアラーといっても、子どもたちが置かれている状況は様々です。親が日本語が話せないという場合もあれば、祖父母の病気の介護の場合もあり、兄弟姉妹の世話をしているということもあります。さらに、ケアを担う子どもたち一人ひとりの気持ちも、もちろん様々です。

 しかし、一見状況の異なる子どもたちを「ヤングケアラー」として捉えることで見えてくるものがあります。

どれくらいの人数の子どもが、ヤングケアラーに該当するの?

最新の調査では、中学2年生の約18人に1人、高校2年生の約21人に1人がヤングケアラーに該当するようです。世話をしている相手は、きょうだいが最も多く、父母、祖父母と続きます。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」令和3年3月 より作成

ヤングケアラーたちはどのような生活をしているの?

 ヤングケアラーとされる子どもたちのエピソードを見てみましょう。

エピソード① お父さんがうつ病を患った柚月さんの場合

小学5年生の柚月さんは、お父さん、お母さん、小学1年生の弟との三人暮らしです。1年前にお父さんが仕事のストレスでうつ病になってしまいました。以前はやさしいお父さんで、休日には遊びにも連れて行ってくれましたが、最近は平日も寝ていることが多いです。時々イライラした様子でお酒を飲んでいることもあって、そんなお父さんを見ると心が苦しくなります。病気が原因と知っていても、お父さんがイライラしているのは自分のせいだろうかとも感じてしまいます。学校から帰るとき、今日のお父さんはどんな様子だろうかと不安になってしまいます。お父さんが働けなくなってしまった分、お母さんは仕事を増やしたので、家のことは柚月さんが担当しています。食事は以前はお惣菜を買っていましたが、最近は柚月さんが料理をするようになりました。お父さんの病気のことは、どう思われるかが怖いので、友達には話していません家事をするために、遊んだり勉強したりする時間は減ってしまいましたが、お父さんが病気の今は仕方がないのかな、と思っています。

 柚月さんのように、家族の不調の原因が病気であるとわかっていても、自分に原因があるのではないかなと感じてしまうこともあります。親の調子・機嫌が日によってかわるので、常に気を張ってしまっている状態です。家族に”元気になってほしい、やさしく接したい”という気持ちと、”うんざりだ”といった気持ちといった、一見相反するように見える感情を抱くこともよくあることです。一方で状況を俯瞰し、”しょうがない”と捉えている子どももたくさんいます

 

エピソード② 幼い兄弟の世話をする葵さんの場合

高校2年生の葵さんは、両親と、3歳の弟と四人で生活しています。お母さんは身体が弱く、最低限の家事は担当していますが、調子の悪い日は横になっていることが多いです。お父さんは仕事が忙しくあまり家にいません。そのため、弟の世話はほとんど葵さんが担ってきました。高校受験を控えていた中学三年生のときには、弟を背負いながら受験勉強をしていました。今も保育園への送迎や食事のお世話、入浴は葵さんの役割です。友達と遊べて良いなあ、と思うこともありますし、大変だとも思いますが、弟はかわいいですし、家族は大切です。年の離れた弟妹がいたら面倒を見るのは普通のことかな、とも思います。

 葵さんのように兄弟姉妹の面倒を見ている子どももいます。幼い弟や妹がいるほか、兄弟姉妹に難病や障がいがある場合にも見られるケースです。大変さや、将来への不安も感じつつも、「兄弟姉妹であれば面倒を見るのは普通のこと」と捉えている子どもも珍しくありません。

子どもがケアを担うことは何が問題なの?

 「ヤングケアラー」を社会問題として捉えることも増えてきましたが、子どもがケアを担うこと自体が問題であるわけではありません。エピソードの柚月さんのように料理ができるようになることや、葵さんのように幼い子供の世話をできるようになることは、生きる上で役に立つことも多いでしょう。また、他者をケアすることで、人間的な成長をする人もたくさんいます。子どものときからケアを担うことができることはすごいことで、例えイギリスではヤングケアラー自身が、「ヤングケアラーであることに誇りを持てるように支援している」といいます。

実態調査においてもケアをすることで「きつさを感じているか」という問いに対しては、きつさを感じていないとの回答が半数を超えます。

 一方的に「ヤングケアラーであることは問題だ」という姿勢で子どもたちを捉えるべきものではないでしょう。

 しかし、子どもがケアを担うことを「家族を助け合って素晴らしい」と美談として終わらせてしまうだけでは、子どもの負担や苦しさに目を向けられなくなってしまうことが、問題視されています。実態調査において「きつさを感じていない」と回答した子どもたちも、幼少の頃からケアをすることが当たり前になってしまっていて、きつさに気が付いていない可能性もあります。

 具体的な影響を見てみましょう。

健康への影響

 世話をしている家族がいる場合のほうが、健康状態がよくないと回答する割合が高くなります。

世話をしている家族の有無による、健康状態の違い(中学2年生)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」令和3年3月 より作成

学業への影響

 世話をしている家族がいる方が、欠席する割合が高くなります。同様に、遅刻や早退の割合も増えます。

世話をしている家族の有無による、学校への出席状況の違い(中学2年生)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」令和3年3月 より作成

ケアを担うことで、学業や進学に影響が出ていると読み取れます。

悩み事

 悩み事は家族の世話をしていない人に比べて多く、また「家族の経済的な状況のこと」や「自分と家族との関係のこと」等の悩みが多くなっています。

現在の悩み事(中学2年生)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」令和3年3月 より作成

 子どもには、子ども時代を生きる権利があります。時間にゆとりを持ち、遊んだり、学んだりしながら、自分の興味関心を深め、自分らしく大人になっていくことが必要です。

 しかし、ヤングケアラーの子どもたちは、自身の心身の健康や、自分自身の余暇、勉学よりもケアを優先せざるを得ないことがあります。また、ケアの受け手を中心に生活が回る中で、ヤングケアラーは、自分とゆっくりと向き合ったり、自分自身のことを相談する時間もあまりとることができない人も多いです。ヤングケアラーとされる子どもたちは、家族のケアを担うことによって、貴重な子ども時代を奪われてしまっていることも少なくありません。

先進国に学ぶ、ヤングケアラー支援に求められること

国際比較

 日本でもヤングケアラーの支援が少しずつ始まっていますが、世界のヤングケアラーの支援の状況を7段階評価で表すと、日本はまだ、下から2番目の段階にあるようです。

引用:NHK首都圏ナビ「ヤングケアラー支援の先進地イギリス ソール・ベッカー教授に聞く」

イギリスでの取り組みと、これから日本で求められること

 イギリスでは1990年代からヤングケアラーの支援が始まっています。

▪ヤングケアラーについての法律 

・イギリス
「ケアラーを支援する法律(通称:ケアラー法)※1があり、ケアラー支援が進んでいる。ヤングケアラーだけでなく家族全体を支援することで、その家族全体の満足が上がるような形で支援を進めること、福祉サービスを検討する際には未成年者をケアの担い手としてあてにしないことなどが示されている。

・日本
ケアを行う人を支援する法律はない。※2

 さらに悪いことに、日本では法律上も、子どももケアの担い手にならざるを得ないことがあります。例えば病気や障がいがあったり、高齢であったりして、調理や洗濯や掃除などの家事のサポートが必要になる場合、生活援助という公的サービスを受けることを検討できます。しかしこのサービスは「同居家族」がいる場合には利用が原則認められず※3、子どもであっても、「同居家族」とみなされてしまうことがあります。つまり、介護が必要な大人と暮らしている子どもたちは、介護や家事を担うべき存在とみなされてしまっているのです。

▪学校での取り組み

・イギリス
学校の教職員が、できる限り負担を少なく、ヤングケアラーになっている子どもを見つけ、支援できるようにするプログラム※4がある。ヤングケアラーの相談にのる専門の職員も配置されている。

・日本
まずは、ヤングケアラーの認知を広めることが必要

 日本の中学校の教員を対象とした調査では、「ヤングケアラーの言葉を知らない」「具体的には知らない」が合わせて40%を超えます。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」令和3年3月 より作成

▪民間のサービスの取り組み

イギリス
民間の支援団体が300ほどあり、全国各地で支援を行っている。

日本
NPO法人カタリバ等支援を行っている団体もあるが、ヤングケアラーの人数に対して支援が足りていない。

 イギリスにおける、民間団体によるヤングケアラーの支援(ヤングケアラーズ・プロジェクト)の内容の一部をご紹介します。

・ヤングケアラーだけでなく、その家族を丸ごとサポート

 ヤングケアラーの子どもたちにとっての家族・家庭環境が、満たされたものであるよう、ヤングケアラーだけでなく、その家族にも会い、話を聴き、必要なサポートを考えます。必要に応じて地域や行政機関とも連携しながら、家族の皆が満たされるようなサポートを行います。

・学校との連携

 教職員がヤングケアラーについての理解を深められるよう勉強会を行います。またヤングケアラーかもしれないという生徒がいたときには支援団体に相談ができるような協力関係を作ります。定期的にヤングケアラーの相談の場を設ける団体もあります。

・ヤングケアラー同士が定期的に集まり、安心して過ごせる場の提供

 家庭でのケアを担うヤングケアラー同士で集まり、その時々の気持ちや最近の出来事を共有したり、サポーターに相談をしたりします。学校では自分の悩みを友人に話しづらかったり、一緒に遊びに行く時間やお金の余裕がなかったりするヤングケアラーも多いことから、友人同士で遊ぶ時間も大事にしており、定期的に遠足やキャンプなどのイベントも開かれます。

 ヤングケアラーとその家族を支える支援制度等についての情報提供を行う団体も多いですし、ヤングケアラーとなっている子どもの親の会を開く団体や、物資での支援を行う団体などもあります。単純にイギリスの真似をすればよいということではないものの、ケアラー支援の進んでいる国から学べることは多いと感じます。


※1:「2004 年介護者の均等な機会に関する法(Carers (Equal Opportunities) Act 2004)」アセスメントを要求する権利をケアラーに知らせることを自治体に義務付けている。また同法 では介護者が就業、就学のニーズを持つ個人であることを認め、労働、教育、訓練、余暇活動 への参加の意思についても確認することについても自治体に義務付けた。/「2014年ケア法(Care Act 2014)」、「2014年子どもおよび家族法(Children and Families Act 2014)」ケアラーの権利として、これまでのアセスメント請求権に加え、支援を受ける権利についても明記されている。また地方自治体は、必要と認めた場合には支援計画を策定することとなっている。
参考:「イギリスにおけるケアラー支援制度と民間非営利団 体によるサービスの実態」山下, 亜紀子  「ヤングケアラーを支える法律――イギリスにおける展開と日本での応用可能性 」澁谷智子

※2 子ども若者育成支援法を改正し、ヤングケアラーの支援を定義する方針が出ている(2024年2月24日現在)

※3 同居家族の扱いについては、自治体の判断による
例:琴平町https://www.town.kotohira.kagawa.jp/site/kotohirakaigo/1026.html
例:船橋市 https://www.city.funabashi.lg.jp/kenkou/kaigo/004/p075471.html

※4 参考
https://youngcarer.sakura.ne.jp/img/file4.pdf

私たちにできること

 では、今私たちにできることは、どのようなことでしょうか。

ヤングケアラーについて知り、言葉を広める

 子どもと関わる大人がヤングケアラーについて知り、適切にサポートできるようにするためにも、子ども自身が自分はヤングケアラーかもしれないと気が付き、必要あれば適切な支援を受けられるようにするためにも、まずはヤングケアラーについての認知を広めることが必要です。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」令和3年3月 より作成

寄付をする

 ヤングケアラーを支援している団体への寄付も、間接的にヤングケアラーを支援することに繋がります。

日本のヤングケアラーとその家族を支える:カタリバ

 カタリバはヤングケアラーとその家族に対して、主にオンラインでの支援を行っています。ヤングケアラーである子どもたちとの定期面談、ヤングケアラー同士で話をできる場の開催、保護者向けのワークショップの運営などを行っています。オンラインだからこそ、全国の家庭とつながることができ、ヤングケアラーである子どもたちが、未来に希望をもち可能性を拓いていくことをサポートしています。

カタリバHP
編集部オススメのポイント!
設立から20年以上、一貫して、10代の子どもを支援しています。その中で培った知見をベースに、子どもたちの機会格差を埋めるチャレンジに取り組んでいます。
女子大生2人でスタートしたカタリバの活動も、現在は100名を超える職員の皆様と、2万人以上の支援者によって支えられています。その原点は”子どもの格差をなくしたい”という純粋な想いです。

子ども達が夢をあきらめないですむように、学習サポートや心のケアを行うのが、認定NPO法人カタリバです。

> 団体公式サイトで詳しくみる
寄付金控除の対象団体です

 

食事を届けることで子どもを支える:グッドネーバーズ・ジャパン

 ヤングケアラーである子どもの家族構成を見てみると、ひとり親家庭の子どもである場合も多く、また、ひとり親家庭の子どもの場合、家事や家族の世話を行っている時間が長いというデータもあります。(令和3年度「ヤングケアラーの実態に関する調査研究 報告書」より)

 グッドネーバーズ・ジャパンは、低所得のひとり親家庭を応援する団体で、1万円分の食品を届けています。家計の助けになるほか、食品の買い出しをする時間を減らすことにもつながります。

グッド・ネーバーズジャパンHP
編集部オススメのポイント!
ひとり親家庭に支援対象を絞り、密にコミュニケーションを取っています。それにより、孤立しがちなひとり親家庭に食品だけでなく”心のつながり”も届けられるだけでなく、寄付をする側にも、ひとり親家庭の親御さんや子どもたちの声がメールマガジンなどを通じて多く紹介されるため、寄付をする喜びを得ることができます。
コロナ禍で失業したり、パートのシフトを減らされるなど、困窮するひとり親家庭が急増しています。このような状況下で、東京都・神奈川県・大阪府にある17の配付拠点(2022年1月時点)で食品配付を実施するなど、積極的に事業を展開し、ひとり親家庭のニーズに応えています。

低所得のひとり親家庭を対象に、定期的に無料で食品を配付しているのが、認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパンです。

> 団体公式サイトで詳しくみる
寄付金控除の対象団体です


 現在私は1歳の子どもとパートナーとの3人での生活です。現在は夫婦で仕事と家事と育児を分担して行っていますが、状況が変化することはだれにでもあり得ます。例えば親である私たち夫婦のどちらかが大きな病気をしたり障害を負ったりした場合などの生活は全く想像したことがありませんし、子どもにかかる負荷も想定できていません。また、起こりうるか分からない未来のことを、そこまで詳しく考えようとも思えません。

 でも、こうして”ヤングケアラー”として頑張っており、その中には苦しみを感じている子どももいることを知った以上、私にできることも考えたい。そのうちの一つとして、すでにヤングケアラー支援を行っている団体を寄付で応援し続けたいと思います。

 そうして、小さくとも行動を積み重ね、誰もが生きやすい社会を目指すことが、結果として、自分や自分にとって大切な人を守ることに繋がるのではないでしょうか。