国境なき医師団に「毎月の寄付」を決める前に調べた、リアルな活動現場と寄付金の使い道

紛争地帯や難民が押し寄せる地域、貧困や病気が蔓延する地域などに「緊急医療」を届ける、国境なき医師団。

日本でも積極的な広報活動を展開しているため、その活動に関心を知っている方も多くいらっしゃると思います。

私は、国境なき医師団(MSF)への「毎月の寄付」(マンスリーサポーター)に申し込むにあたって、団体や活動、寄付金の使い方について調べましたので、皆さんにもシェアしますね。
いとうせいこうさん(小説家)のルポ「『国境なき医師団』を見に行く」で印象的だったエピソードも交えて解説します。

国境なき医師団とは?紛争や自然災害などに緊急医療支援

国境なき医師団(Médecins Sans Frontières=MSF)が生まれたのは、1971年。
フランスの医師とジャーナリストからなるグループによって、設立されました。

国境なき医師団のWEBサイトより

アジア・アフリカなど70の国で活動

紛争地や難民キャンプ、感染症の流行や地震・ハリケーンなど自然災害などに苦しむ地域に、医師や看護師などからなる医療チームを派遣。
保健医療サービスを受けられない人びとを対象に、緊急的な医療支援や人道救助の活動を行なっています。

2021年には、 72の国と地域で、約4万6000人のスタッフが活動しました。

日本事務局は1992年に発足。2021年には国境なき医師団日本から、31の国・地域へ90人(のべ106回)の派遣が決まりました。

主な活動は、診察と治療(外科・栄養失調・産科など)や病気の予防(予防接種など)、心理・社会面の支援(心理ケアなど)など。
その範囲は、「清潔な水の確保、食糧・生活用品など緊急援助物資の配給、病院の再建や運営支援、病気にかかるリスクを減らすための健康教育」にも及びます。

ノーベル平和賞を受賞。日本にも拠点

このような実績が評価され、1999年にはノーベル平和賞も受賞したそう。

日本でも「特定非営利活動法人国境なき医師団日本(認定NPO法人)」を、1992年に設立。
東京都新宿区に事務局を構え、「ファンドレイジング(寄付金募集)」と「スタッフ(医師や看護師など)の採用」、「証言活動」の3つに取り組んでいるとのことです。

リアルな活動現場は?いとうせいこうさんの本で、印象に残ったこと

国境なき医師団が活動するのは、主にアフリカや中東、南米など日本とは離れた地域。

そのリアルな実態は、寄付をしている方や支援を検討している方には、なかなか実感しにくいかもしれません。

私もその一人でしたが、「毎月の寄付」での支援を決めたプロセスのなかで、掘り下げて調べてみることに。
有名な作家、いとうせいこうさんのルポ「『国境なき医師団』を見に行く」という本を読んでみました。

印象に残った点を、エピソードとともにご紹介すると・・

ポイント1:「独立・中立・公平」を守るための、徹底的な安全確保

 MSFの活動地域は、決して平和なところだけではありません。

反政府勢力との間での内戦が勃発している地域、ギャングや武装集団などが跋扈して治安が不安定な地域など。

そんな危険とも言える環境下では、武力をそなえた特定の勢力の保護を受けながら活動するのが、安全を確保する早道でしょう。

ところがそれでは、理念である「独立・中立・公平」を実現できません。
そこで、政治的な中立を守ったうえで、スタッフの安全を確保するために、徹底的な安全管理をしている様子が伺えました。

著者が初めて訪ねた活動地、ハイチでは建物に大きく「小銃の絵とバツ印」が描かれていたそうです。
どのような勢力であれ、「国境なき医師団」は医療を拒まない。
だからこそ、どのような勢力であれ武器は放棄せねばならない。そのことは以前にも書いた。
院内での対立は絶対にあってはならないからだ。
患者や医師たちが紛争に巻き込まれることになってしまう。
マフィアの抗争が絶えない地域にて無料で治療をしているため、「修羅場」と常に隣り合わせだそう。
著者が訪れた数日前にも、「警察が外傷のある患者を運び込んできたそうで、それがギャングだったので治療後すぐに逃げ出して捕物になり、登った屋根が抜け落ちて再度逮捕された」という事件もあったそう。
そんな危険な環境下でも安全を確保するために、「この地域では、MSFの車両から離れて歩いてはいけない」「この地区なら、」(←ただし、一人の医師が「ノートPCを持っているから」という理由で隊列から外されたのが、驚きでした)といったように、ルールが細かく決められています。
いとうせいこうさんも渡航前には、「プルーフ・オブ・ライフ」つまり、万が一誘拐された時に身元が確保されているか?を判別するために「自身しか知り得ない言葉」を提出する、というプロセスも踏んだそう。
決して「100%安全」とは言えない場所にこそ、緊急医療を必要としている人がいる。
そして、誰もが医療を受けられるよう、政治的に中立な立場を崩さない。
この崇高かつ困難な理想を実現するために、綿密なガイドラインと安全確保の仕組みが定められているのです。

ポイント2:限られた資金で一人でも多くを助けるための、「ロジスティック」へのこだわり

「命を助ける」活動というと、医師や看護師などの活躍ぶりに注目が集まりますが、欠かせないのが「薬や水、食料を用意する」「スタッフの安全を確保する」といった縁の下の力持ちの役割。
いわゆる「ロジスティック部門」の存在です。
「国境なき仁術団」には医師、看護師だけがいるのではない。
我々を安全に送り迎えしてくれる輸送、そして薬剤などを管理する部門、そして建物を造ったり直したり、水を確保するべく工事をするロジスティックがいなければ、医療は施せないのだ。
MSFは、〝災害や紛争があれば、すかさず現地入りする組織〟として有名です。
それができるのは、すぐに必要な物資と人を届けられる、ロジスティックの存在があるから。
「ジェネレーターもあのコーヒーマシンの洗浄も、緊急治療室の電気も、トイレも、検査室や手術室に必要な冷房も、すべてロジスティックとサプライチームが用意して、医療従事者がベストを尽くせるようにする。」
本部のあるパリに大規模なオペレーションセンターを置き、“元エンジニア”といった非医療スタッフも数多く参加して、緊急医療を効率的に提供できる環境を整えているそうです。

ポイント3:人々の「尊厳を守る」ために、多大な配慮をしていること

災害や紛争などを体験してきた人々のなかには、さまざまな困難に直面してきた方も多くいます。
たとえば、シリアから難民として国を逃れた人々を収容する、ギリシャの「難民キャンプ」。
アテネのピレウス港近くの小さな医療施設で著者が話を聞いただけでも、「斡旋業者に騙されて」「夫をボートの上でなくす」「性暴力の被害にあった」といった壮絶な体験をしてきた方々が、キャンプにたどり着いていたそうです。
そんな過酷な環境でも、決して奪われてはならないのが人間としての尊厳。
そこで彼ら「難民」の尊厳を守るため、重要な役割を果たしていたのが「文化的仲介者」というスタッフでした。
患者になる人はたいてい英語を話せない。
さらに宗教的な都合を持っている。女性がしてはならないことがある。
治療者側がよかれと思っても、ケアを受ける側がまた抑圧だと感じてしまってはいけない。
(「『国境なき医師団』を見に行く」より)

そういった背景から、「言葉を通訳し、それぞれの慣習を医師に説明し、また患者にこちらの支援方針や内容を理解してもらう」のを役割としているそうです。
合計 40 人のスタッフのうち、「医師は3、4人、看護師7人、文化的仲介者がなんと 14 人」というほどに重視されているそう。

さらに、仮設住宅に入れても「子供がストレスで不眠に」「家族の中でのいさかいが絶えなくなる」「自分たちがどこに安らぎの場所を求めればいいかわからなくなっている」といったなかで、不安が募っていく状況もあったそう。
そこで心理ケアに従事するスタッフも配置しているそう。

(もちろん現場のニーズや状況にもよりますが)直接的な医療だけでなく、傷ついた人々の真の回復をサポートしている姿勢に、感銘を受けました。

日本で集まった寄付金の収入と、使い道は?

そんないとうせいこうさんの本を読んだ後に、改めて気になったのが、自身の寄付金がどれだけ役立っているか?
WEBサイトで、どれだけの寄付金が集まって、どのように使われているのか?を調べてみました。

日本だけで、115億円近くの寄付収入。その多くは個人から

WEBサイトで公開されているデータによると、2021年度の総収入は119.3億円。
そのなかで特長的なのが、「個人を中心とした民間からの寄付金が93.7%を占めている」ことです。

(出典:国境なき医師団 活動資金ページ より)

MSFが強くうたうのは、「独立・中立・公平」な立場であること。

紛争地で政府や反政府勢力の意向に左右されずに、困っている方に医療を届けるために、政府や公的機関からの資金援助をほとんど受けておらず、民間からの寄付で活動資金を賄っているそうです。
(さらに、製薬メーカーなどのビジネス上の利害に翻弄されずに公平な立場を貫くために、寄付のうち90%近くを法人ではなく個人から集めているという徹底ぶり。)

「使途を指定しない」で募るのは、緊急支援にそなえるから

その寄付ですが、MSFはほとんどの場合、 使途をしないで募集しています。

寄付というと、「シリア難民支援のため」「この物資を届けるため」といったように、使い道を指定して募られる場合もあります。
支援者からすると、「何に使われるか?」が分かりやすいのでお金を出しやすく、資金も集まりやすい傾向があります。

一方、地震や台風など災害や、戦争・紛争や疫病などの災厄は、「いつどこで発生するのか?」を予測できません

MSFは、「48時間以内に緊急事態に対応」して「命の危機の現場に向かう」チームを持っていますが、物資の運搬やスタッフの渡航などにかかる費用は、後で支払う訳にはいきません。
あらかじめ手元に十分な資金がないと、「いざ」という時に支援に向かえないのです。

そこで大事なのが、「使途を指定せずに」寄付金を集めること。
毎月1,000円〜の寄付を集める「マンスリーサポーター」など継続的な寄付の募集にも力を入れているのも、同様の理由からだそうです。

82.7%が「ソーシャル・ミッション費」に

そのように集まった資金は、「MSFオペレーション事務局」を経て、活動地に届くそう。

2021年度は、総支出119.2億円のうち82.7%が援助活動費(人道援助プログラム支援金+スタッフ募集・派遣、研究・開発等)と広報・アドボカシー活動費を合わせた「ソーシャル・ミッション費」に使われているとのことでした。

(出典:国境なき医師団 活動資金ページ より)

この「ソーシャルミッション費」という区分は、初めて見たときには個人的にはよく理解できませんでした。
MSF日本は、医師や看護師などスタッフの採用・派遣や証言活動もミッションとしています。
したがって「それらを現地の援助活動への拠出分と合わせて、直接的な活動に使った資金という意味で、このような区分にしているのでは?」と今では推測しています。

緊急医療の現場で購入できる物資

最後に:「善意が持つ力」がつながり、誰かに届く

「ロジスティック」へのこだわりにおいても紹介したように、大規模なヒトとモノの素早い移動を支えるのは、寄付によって事前に提供されている資金。
「国境なき医師団を訪ねる」の本で紹介されていたのですが、ハイチでロジスティクスを担当していたスタッフ(ジョンシルさん)にドナーへの想いを訪ねたとき、「顔つきが一変」しながら答えた言葉が心に残りました。

世界各地にMSFが一番乗りして困っている人を救援出来るのは、寄付して下さる人がいるからです。
皆さんが思ってらっしゃるより、その力って凄いんです」
これは実際にお金の動きを見ている物資調達関係者だからこその実感に違いなかった。彼女たちはそこにお金がなければ医薬品も手術器具もテントも水も届けることが出来ないの
(「『国境なき医師団』を見に行く」より)

私自身が「寄付をして良かったな」と感じたエピソードを最後に紹介すると、ジョンシルさんは「年末になると、支援者の方々の声を派遣先のパソコンで一通ずつ読む」そうです。
そうすると疲れてるからなのかなあ、どうしても泣いちゃうんです。
感動して。支援者の方にもそれぞれストーリーがあって、あたしたちにもあって、そういうものが全部つながってドライブされて、それが活動になっていくんだなってわかって
〝全部つながってドライブされて、それが活動になっていく〟というダイナミズム。
著者は、「善意が持つ力」「関係する力」「知ったらもう後戻り出来ない力」と形容していました。
「彼らは眼前のリアルな困難から目をそむけず、無力であるという人間存在の条件を受け止めながら、しかし未来がよりよくなるという信念の方向へと活動を続けているのだった」
とても素敵な人たちです!

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