難民問題というと世界の課題、遠い国の話と思われがちですが、日本にとっても他人事ではありません。
少し統計情報が多めになりますが、なるべく噛み砕いて現状と課題について確認したいと思います。
目次
世界の難民問題
まずは世界における難民問題の全体像を確認しておきたいと思います。
増加し続ける世界の難民数
国連難民高等弁務官事務所(以下、UNHCR)が毎年発表している統計情報「Global trends 2017」では、2017年末の情報として全世界で約2540万人の難民がいるとされています。
また、自国内にとどまっている国内避難民は約4000万人にのぼるとされ、庇護申請中の310万と併せて約6,850万人が住んでいた場所を追われていることになります。
期待される難民支援への国際的連携
難民問題としては人数の規模だけでなく、長期化や、受け入れ国の偏り、支援のための資金不足など様々な課題が挙げられます。
そこで、国際社会としては、発生国と受け入れ国以外の第三国の貢献や、国家だけでなく企業や市民社会のサポートなど、幅広い連携が期待されています。
国際協力における日本の難民支援
日本はUNHCRに対し世界第4位(2017年)の資金拠出国であり、多くの日本人が職員としてUNHCRの事業に携わっています。
また、2017年には日本の8つのNGOがUNHCRと10件の事業実施パートナー契約を結び事業を実施しました。
これらの点から、海外における国際協力という面では一定の存在感を示していると言えます。
日本の難民受け入れ
では、日本の国内への受け入れはどうなっているのでしょうか。
難民申請および認定数の推移
日本において、2019年に難民認定申請を行った外国人は10,375人、認定を受けた人は44人で、認定率にすると0.4%でした。
ちなみに2014年〜2018年の5年間の申請者数、認定者数、認定率などをリスト化すると以下の通りで、認定数・認定率のどちらを見ても他の先進国と比較して著しく低い数値です。
どこから日本に来ているのか
2018年のデータでは申請者および認定者の出身国の上位5カ国は以下の通りです。
ネパールからは、ここ数年続けて1,000人以上の申請者がいて、常に申請者数の上位にあがりますが、ほとんど認定者が出ていません。
世界の難民の出身国トップ5カ国(2017年)であるシリア、アフガニスタン、南スーダン、ミャンマー、ソマリアとは大きく異なる点は特徴的です。
人道的配慮による在留特別許可
一つ目の表の最後の行に、認定者とは別に「在留特別許可」という行を加えています。
少しややこしくなりますが、いわゆる難民条約では紛争から逃げてきた人などは厳密には難民とは定義されていません。
日本では厳密に条約に基づいて認定審査を行い、認定者を「条約難民」としているため、紛争を理由にしても認定は受けられません。
ただ、内戦から逃れてきた人など、国際的には広義に難民と呼ばれるような、手を差し伸べるべき状況の人たちを、「人道上の配慮を理由に在留を認めた者」として在留特別許可を与えています。
その数は、2009年のガイドライン改定直後は500人超いましたが、その後は減少傾向にあり、2018年は40人にとどまっています。
第三国定住制度
難民認定制度はどちらかと言うと受け身の制度ですが、第三国定住制度は他国の難民キャンプや居住地等にいる難民を日本に呼び入れる積極的な受け入れ策です。
日本は毎年約30人を目安としてミャンマー難民を対象として受け入れています。
ミャンマー難民と言っても、バングラデシュに逃れたロヒンギャ難民ではなく、タイやマレーシアに滞在しているミャンマー難民が対象です。
パイロット事業として開始した2010年から2018年までに合計44家族174人を受け入れています。
日本の難民受け入れの課題
申請者数の課題
認定率の低さにも関連して、申請者数が2014年の5,000人から5年で2倍以上に増加しているという問題点を考える必要があります。
また、増加傾向から一転、2018年に難民認定制度の運用が見直されたことで、2018年には前年比47%も申請者数が激減しました。
この乱高下は、日本の難民認定制度やその運用において、長い審査期間や就労条件など、様々な課題があることを示しています。
法務省入国管理局「我が国における難民庇護の状況等」を元に筆者作成
認定者数の課題
難民認定者数はここ10年、申請者数の急増にもかかわらず、一度も50人にも達しておらず、国際社会から難民問題への貢献度が低いと言われる要因となっています。
背景には、前述した「紛争難民」が認められない点や、難民自信が迫害等の事実を立証しなくてはならない手続き上の課題などが挙げられます。
積極策である第三国定住も年間約30人という枠があり、規模的には十分とは言えません。
法務省入国管理局「我が国における難民庇護の状況等」を元に筆者作成
この低い認定数に対し、多くの難民を受け入れている他の先進国や国際社会からは厳しい目が向けられています。
UNHCRの駐日代表からも、昨年開かれたシンポジウムにおいて「お金を出すだけでなく、日本にはもっとできることがある」という趣旨のコメントがされています。
ただ、同時に「チャンスでもある」というコメントもされており、批判的な論調というよりも日本の今後の貢献に期待が高まっていると言い換えることもできるかもしれません。
そうした声を受けてか、政府は2020年度から第三国定住の枠をこれまでの倍の60人とし、5年後をめどに更に拡大する方針を示しました。
受け入れ体制の課題
国際社会の期待の一方で、日本側では逃れてきた人々を保護し、受け入れる社会体制が用意できているでしょうか。
難民認定申請中の人が収容される品川や牛久(茨城県)の施設における人権侵害が度々問題視されています。
また、外国人技能実習生をめぐる問題をみると、海外から来る難民も同じような差別や人権侵害に直面することが懸念されます。
日本で難民受け入れの活動を行うNPO3団体
これまで見てきたように、日本の難民受け入れには課題が山積していますが、その課題の解消のために活動している方々もいます。
日本の難民受け入れに関連する活動を行う団体を3つご紹介します。
これらの団体のホームページなどからより詳しい情報を得たり、活動への参加や寄付などを通して、自分に何ができるかについて考える参考になさってください。
認定NPO法人 難民支援協会(JAR)
難民支援協会は、日本における難民申請の支援から、申請者の生活支援や医療支援、難民の自立やコミュニティへの参画支援など、幅広い活動を展開している団体です。
また、制度の改善を求める政策提言なども行っているため、ホームページでは制度的な課題がわかりやすく解説されています。
さらにもっと詳しく知り、活動したいという方向けには「難民アシスタント養成講座」も開講されています(2日連続・不定期)。
難民支援協会とは認定NPO法人難民支援協会
特定非営利活動法人なんみんフォーラム(FRJ)
なんみんフォーラムは、日本に逃れた難民を支援する団体のネットワーク組織です。
上記のJARもWELgeeもこのフォーラムに加盟しています。
FRJは個々の会員団体が提供するサービス(難民申請や仮放免などに関わる法的アドバイス、生活、医療などの相談援助、教育支援、キャパシティビルディング、収容所でのカウンセリングなど)を調整し、助けを必要とする人々に包括的な支援を実施できるように努めています。
なんみんフォーラムホームページ「FRJとは」より抜粋
2019年5月現在18団体が加盟しており、それぞれの団体のサイトへのリンクもまとめられています。
また、ネットワーク組織ならではの情報として、難民認定者数の政府発表に対する加盟団体の声明のまとめ記事などもあり、難民問題を多角的にみることができます。
なんみんフォーラムとはFRJなんみんフォーラム
NPO法人 WELgee(ウェルジー)
WELgeeは、日本にやって来た難民たちと誰もが活躍できる未来を作り出すため、活動している団体です。
日本にいる難民が未来をデザインできる状態を作り、さらに日本人、日本社会と難民の人とのパートナーシップを生み出す活動を行なっています。
“難民”は、様々な可能性を秘めている。しかし、日本には彼らが“未来をデザインできる環境”がない。紛争・差別・迫害などから逃れ、日本にやってくる「難民」。彼らは、数日前までは当たり前の日常を母国で送っていました。夢見るITエンジニア、正義感に溢れるジャーナリスト、優しい牧師さん…多様なスキル・経験を持つユニークな人材です。
WELgee HP
難民を要支援者ではなく、同じ社会の構成員として受け入れるという大事な視点を教えてくれます。