メディアやインターネットを通じて、時より報じられる途上国の現状。
自分でも何か支援ができないか、「国際協力」の現場で働いてみたいと思う人は多いのではないでしょうか。
国際協力も、NGO・NPO、国際機関の場合と多様ですし、最近では企業も参画し始めています。
働き方も、現場で働くものもあれば国内業務に従事する場合も。
具体的に、途上国支援の仕事にはどのようなものがあるのか、6つ紹介します。
目次
事例1:途上国の課題を解決に向けたプロジェクト運営の仕事(プロジェクトマネジメント)
途上国の支援の仕事の代表格が「プロジェクトマネジメント」です。
この仕事は、主に現地事務所や拠点に日本からの担当者が常駐し、課題解決のプロジェクトを遂行するもの。
実施期間も3年以上など長期にわたるものが多いです。
多くのプロジェクトは、現地の政府機関やNGO・NPOなど地元住民組織と連携しながら進められることが多く、高いコミュニケーション能力や柔軟に対応する能力などが求められます。
辛抱強く、でも着実に物事を進めることが得意な人にとって挑戦しがいのある仕事でしょう。
どんなプロジェクトにもさまざまな利害関係がある。
ジャパン・フォース・サスティナビリティHP
(中略)住民を集めてニーズを聞く場合も、住民グループの代表だと名乗る人が、本当にほかのメンバーの希望を代弁しているのか、自分に有利な発言をしているだけではないのかなど、常に気を配らなければならない。
その段階で間違ってしまうと、便益を受けるべき人に役に立たないプロジェクトになってしまうかもしれない。
具体的なプロジェクトを紹介しつつ個別の仕事内容について紹介します。
国際NGOの場合:保健衛生環境の改善プロジェクト(ユニセフ)
ユニセフ職員の瀬田さんは、ユニセフスーダン事務所で、郡の衛生環境を改善するプロジェクトを2016年から運営しています。
主に、地元の政府機関と連携しながら衛生環境改善のプロジェクトを推進しています。
スーダンでは、依然としてトイレの利用が少なく野外排泄が行われています。
そのため、衛生環境が良くなく感染症が後を絶ちません。
衛生環境を整えるため、村民を集めて病原菌のリスクや簡易トイレの設置方法を教え、トイレ利用の意識を啓発しています。
同時に、トイレの利用が進めば、トイレ設置という新たな仕事が生まれます。
この技術トレーニングを行い、雇用機会の創出も目指しています。
(出典:ユニセフHP)
他にも、地元保健省に対して衛生環境改善の計画策定を支援したり、政策提言を行ったりもします。
なるべく、地元の政府が外部の援助に頼らずに自立して計画をつくることができるようにサポート。
結果がでるまで時間がかかるので、辛抱強く続けることがプロジェクトマネジメントでは必要だそう。
その国の10年後、20年後の将来を見据えた仕組みづくりに携わることができるのは、難しくもあり、面白いところだと思います。
ユニセフHP
政府のパフォーマンスに支援の質が反映されることになるので、言い訳ができませんし、逃げられません。
そう思うと、身がひきしまります。
日本のNGOの場合:人身売買のない社会づくり(かものはしプロジェクト)
日本発のNGOかものはしプロジェクトで働く清水さんは、2012年から始まったインドのプロジェクトで、現在はディレクターとして活躍していらっしゃいます。
現地のNGOと連携しながら、プロジェクトを推進しています。
インドでは、貧困等が原因で女の子が騙されて、強制的に性的産業に従事させられる事件が相次いで発生。
未成年の女の子の人身売買が問題になっています。
プロジェクトでは、こうした被害にあった女性の心のケアや、取締の強化や法整備などの仕組みづくりの支援などを、パートナー団体と協力しながら実施しています。
また、人身売買の被害にあった女性自身が「サバイバーリーダー」として再発防止に取り組めるよう、議論できる場を設けるなどしてリーダーシップの育成にも取り組んでいます。
(出典:かものはしプロジェクトHP)
規模が大きくないNPOなどでは、プロジェクトの担当者に与えられる裁量が比較的高いのが特徴です。
刻々と変化する途上国の現状で自分の頭で判断しなくてはいけないので、タフさが求められますが、同時に自己成長を促進することにもなります。
リーダーシップは、組織のトップにのみ必要とされるものではなく、各個人がその職務と能力の範囲内で適切に発揮することが求められます。
かものはしプロジェクトHP
歴史が長く、ヒエラレルキーがはっきりしている組織では、なかなかその役割を期待されることはありませんが、かものはしも、パートナー団体も、とても優しくてかつ厳しいので、自分が成長していかないといけない、といつも思わせてくれます。
事例2:スキルや知識を持った専門家による技術移転の仕事(青年海外協力隊)
海外協力隊は、JICAが政府開発援助の一環で実施しているボランティア派遣事業のひとつ。
それまでの知識や経験を途上国の発展に活かす仕事です。
途上国政府からの要請を受けて、農業、コミュニティ開発、土木、保健・·医療、スポーツなどを含む9つの分野での支援をしており、職種は120種。
期間は、2年程度の長期のものと、1年未満の短期のものがあります。
例えば、農業分野では、協力隊員が野菜の栽培方法について村民に協同組合などを通じて直接指導をしています。
また、品種改良の研究開発を手伝うこともあります。
(出典:海外協力隊HP)
他にも、スポーツの分野では、途上国のスポーツ局などに出向し、競技選手の強化のお手伝いをしています。
また、障害者スポーツ選手の支援にも最近では注力しはじめています。
(出典:海外協力隊HP)
協力隊の仕事では、それぞれの分野における専門性が求められます。
そのため、専門性が高いがゆえに、途上国の人たちとの考えのズレが起きてしまうこともあるそう。
協力隊員が、相手の目線に立ち、共に働くという意識を持つことが重要だそうです。
仕事を進めていくうちに、自分の気持ちを押し付けるのではなく、ゆっくりと一緒に進めていく立場でなければいけないのだと、徐々に気付き始めました。
海外協力隊HP
なお、JICAではODAのプロジェクトとしてインフラ開発や保健・福祉制度の設計などを実施。
他にも、途上国の地元政府に対して、ソリューション提供をするコンサルティング業務もあり多岐に渡ります。
事例3:プロジェクトの運営にむけて寄付集めを行う仕事(ファンドレイジング)
ファンドレイジングは、広報活動などを通じて運営に必要となる資金を集めるお仕事です。
ファンドレイジングを実施する担当者は、一般的にファンドレイザーと呼ばれます。
支援企業の開拓や新しい寄付の企画(寄付付き商品など)を検討・実施したり、イベントの運営もしたりと広告活動全般が含まれます。
このため、マーケティングの知識や経験があるとより効果的に取り組むことができます。
寄付することは、食べ物や服や旅行のように、自分の欲求を直接には満たしません。
国境なき医師団HP
そういう意味で、ファンドレイジングは、企業のマーケティングより難易度が高いと言えるでしょう。
また、ファンドレイジング協会が戦略的な寄付集めのステップを紹介しているように、組織や外部環境の分析やコミュニケーションの選択、モニタリングなど戦略的な思考も必要。
(出典:日本ファンドレイジング協会HP)
能動的に動き、自らの頭で考えることができる人にとって、挑戦しがいがある仕事といえるでしょう。
事例4:専門家集団による国際機関の仕事(国際連合)
国際連合(以下、国連)は、1945年に世界平和の追求のため設立された国際レベルの組織です。
国連には、理事会や安全保障理事会などの平和構築の仕組みのほか、国連システムと呼ばれる分野ごと(例:農業、保健、環境など)の組織があり、それぞれが途上国の課題に取り組んでいます。
UNDP(国連開発計画)やUNEP(国連環境計画)などの国連機関の名前を耳にしたことがあるのではないでしょうか。
職員の多くが大学院を卒業しており、ハイレベルの専門性を有しています。
このような機関では、途上国の現状分析や調査を実施したり、NGOなどと連携しながらプロジェクトを実施したり、仕事も多岐に渡ります。
例えば、UNDPは、インドネシアでは持続可能なパームオイルの使用について途上国の地元政府機関と連携しながらプラットフォームを構築しました。
UNDPの呼びかけによって、パーム農園同士がプラットフォームを通じて、持続可能性に関する経験や知識が共有されています。
(出典:UNDP HP)
また、国連理事の事務局としての仕事もあります。
途上国支援の現場での仕事ではありませんが、国連を機能させるのに重要な役割です。
国際会議の実施にあたり、関係者の日程調整や要人のためのホテルや車両の手配など、きめ細やかな配慮が必要となります。
事例5:ソーシャルベンチャー・社会的企業の仕事
近年、「事業を通じた社会貢献」を実現する企業が出現しています。
その代表格が、アパレル・雑貨を製作・販売している「マザーハウス」です。
商品の生産、管理、販売など関連する全ての仕事が、途上国への貢献につながっています。
マザーハウスは、バングラデシュやネパールなど、途上国を中心に自社工場を構えています。
販売拠点は、国内26店舗、海外9店舗があります。
商品のほとんどが自社工場からの取引なので、日本国内や海外で商品の販売が伸びれば、新たな途上国での雇用の機会を創出する可能性が広がります。
自分のお店の売り上げが次の国のチャレンジにつながっていくというのをリアルに感じられるので。
マザーハウスHP
例えば私が入社した6年前には生産地はバングラデシュとネパールだけでした。
そこからインドネシア、スリランカ、インド、ミャンマー…と広がっていくのを見て、それを実感しています。
商品販売を通じた貢献なので、途上国支援のプロジェクト運営など、国際協力の専門性は必須ではありません。
むしろ販売促進や生産管理などの経験を活かせる仕事でしょう。
マーチャンダイジングの仕事であれば、現地工場への発注や、現地とのコミュニケーションを通じた品質管理が。
また、店長の仕事であれば、店舗レイアウトや顧客からのフィードバックの分析や保守メンテナンスがあります。
店長は店舗経営を基本的にすべて任されています。
マザーハウスHP
1年の初めに店舗のコンセプト設計をし、それを戦略に落とし込んで、日々の業務に組み入れることをしています。
今後こうしたソーシャルベンチャーが増えることで、一般企業での経験を直接的に、途上国支援に活かせる機会も多くなるでしょう。
事例6:CSR(企業の社会的責任)に積極的な企業で働く
ソーシャルベンチャー以外にも、CSR(企業の社会的責任)活動を通じて途上国支援を行う企業もあります。
こうしたCSR活動を会社の中で推進したり、事業を通じたCSR活動に取り組むことで間接的に国際協力に携わることができます。
事業を通じたCSRとは、普通のCSR活動のように、団体へ寄付するような社会貢献ではなく、事業性と社会性を両立した活動のことです。
味の素株式会社(以下、味の素)は、2009年から「ガーナ栄養改善プロジェクト」と称して、事業を通じたCSR活動を推進しています。
「KOKO Plus」という離乳食サプリを研究・開発し、現在では、利用の定着を目指して販売をしています。
乳幼児の栄養改善という社会的課題に取り組むことにより、援助機関やNGOなど多くの組織団体から、プロジェクトの目的に賛同、理解を得られたのです。
ODA白書2012 HP
一企業だけですべてを解決するのではなく、役割分担しながら目的を達成する。
協力関係を活用してビジネスを成立できないかと考えました。
ガーナなど西アフリカでは5歳未満の乳幼児の死亡率が深刻。
特に、1歳未満の 乳児の死亡率は1,000人当たり51人と高いです。
離乳食などの栄養管理が重要です。
ガーナには、「KOKO」という、とうもろこしのペーストを離乳食で食べさせる習慣があります。
しかし、これだけではあまり栄養価が高くありません。
そこで、味の素は、「アミノ酸」など豊富な栄養知識に基づき、離乳食にふりかけるサプリメントを開発しました。
プロジェクトの当初は、NGOの協力を得ながら、離乳食に関する現状を含め市場調査を実施。
製品の開発が進んだら、現地の食品会社に指導しながら、生産を開始。
現時点では、政府機関や日本のJICAとも連携しながら栄養サプリの定着をはかっています。
まさに、食品会社の仕事そのものであり結果として途上国支援につながるので、食品会社での経験が活かされる仕事でしょう。
(出典:味の素 HP)
最近では、SGDs(持続可能な発展の目標)を企業経営に取り入れるところが増えており、途上国支援における企業の存在感が高まりつつあります。
途上国支援に積極的な企業に属し、CSR活動に取り組むことで国際協力を仕事にすることができます。
まとめ:どんな仕事に自分なら取り組んでみたい?現地に赴くものからバックオフィスまで多種多様
途上国支援の仕事は、国連やJICAのような大きなものから、中小規模のNGOのような草の根の活動もあります。
また、企業による活動の参画も増え、各組織間の連携も進んでいます。
いまや、途上国支援のプロジェクトは、専門知識だけでは効果的と言えず、むしろ、現地とのコミュニケーションやマーケティングなど事業会社で必要なスキルも求められつつあるのです。
働き方も、現地に赴くものもあれば、国内でファンドレイジングのように現場で活躍する人を支える役割も。
それぞれ、途上国支援を続けていくのに重要な役割です。
今後、自分が国際協力や途上国支援に関わりたいと思ったら、どのような組織で働きたいか、どんな役割が自分に向いているか、見極めながら挑戦してみてはどうでしょうか。