目次
日本の「子どもの貧困」って何?
”日本には「子どもの貧困」という深刻な社会問題がある”―――そう聞いても、何が起きているのかイメージできる人は多くないかもしれません。まずは具体的なエピソードをみてみます。
中学2年生の美優さんはお母さんと二人暮らしで、駅から徒歩20分の1DKの古いアパートに住んでいます。幼少の頃はお父さんも一緒に3人で生活をしていましたが、お父さんのDVが原因で、美優さんが小学生のときに両親は離婚しました。お母さんはDVが原因で精神的な病を患ってしまい、長時間は働くことができず、家で内職をすることが精一杯です。DVを見て育った美優さんも心に大きな傷を負い、学校にはあまり通えていません。ただ、美優さんはひとり親家庭の子どもを支援する民間の居場所支援には顔を出しています。居場所支援で時折配布される賞味期限の近づいた非常食なども貴重な食糧で、非常食を「食べ慣れている」と話します。
「貧困」って具体的にどういうこと?
貧困という言葉から、どこか遠い国の飢餓で苦しむ子ども、といった想像をする人も多いと思います。日本でスマートフォンを持ち、コンビニで菓子パンや駄菓子などを買っている人が「貧困」であるといわれてもピンとこないかもしれません。
「貧困」には、「絶対的貧困」と「相対的貧困」という二つの考え方があります。
・ 絶対的貧困
世界銀行が定義する「1日を2.15ドル未満で過ごす人」。
一般的な貧困のイメージはこの「絶対的貧困」に該当します。
(引用:World bank)
・ 相対的貧困
「貧困線(等価可処分所得の中央値の半分の額)を下回る等価可処分所得しか得ていない者」。
つまり、世帯の収入から、税金や社会保険料等を引いた「手取り収入」 の中央値の半分以下の生活を送る人。
「絶対的貧困」は、食べ物や水を得ることも難しく生きること自体が困難な状態と言えるでしょう。一方「相対的貧困」は、確かに水を飲むには困らなければ、一応食事もできているけれども、我慢したり困ったりすることが人よりもかなり多く、他の人との暮らしの差を毎日突きつけられる状態とも言えるかもしれません。
日本の子どもの貧困の状況をデータで見てみよう
厚生労働省の国民生活基礎調査によると、2021年の貧困線は以下になります。※1
- 1人世帯:127 万
- 2人世帯:約180万円
- 3人世帯:約220万円
- 4人世帯:約254万円
相対的貧困率は 15.4%で、 子ども(17 歳以下)の相対的貧困率は 11.5%です。これは子ども約8~9人に対して1人の割合です。※2
また、世帯員別にみてみると、ひとり親家庭の44.5%が貧困線を下回っています。
ひとり親家庭の内訳として、母子家庭と父子家庭を比較してみると、世帯数では、母子世帯は119.5万世帯に対して、父子世帯は14.9万世帯 で、約6.5倍母子世帯の方が多いです。
収入別にみると、母子家庭では母親自身の年間就労収入の中央値は200万円に対して、父子家庭における父親自身の収入の中央値は400万円です。母子家庭においては、母親自身の就労収入が200万円未満の家庭が約50%に上りますが、父子家庭においては約7%です。(厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」)
父子家庭よりも母子家庭のほうが経済的に困窮しているという現状があります。なお、「母子家庭」においても、母親の就業率は86.3%です。働いているけれども困窮している、それが相対的貧困下にある多くの家庭の状況です。※3
※1:世帯人数が2人になっても、必要な支出が単純に2倍になるわけではありません。 そのため、ひとり世帯の貧困線に、世帯人数の平方根をかけることで、世帯人数ごとの貧困線を計算します。※2:人口推計(2022年10月1日現在/統計局)によると、17歳以下の人数は1千7百73万8000人であり、そのうちの11.5%は約200万人です。※3:2023年8月時点での、全国で一番低い最低賃金は853円で、月20日間、1日8時間働いて得られる年収が約160万円です。東京都の最低賃金の1072円でも、フルタイムで働いて年収約200万円にしかなりません。また、あくまで額面の年収で、社会保険等ひかれるため手取り収入はもっと減ります。なお、ひとり親世帯には税制上の控除もあります。
海外との比較
日本の状況を海外と比較してみましょう。
子どもの相対的貧困率は、先進国の集まりとされているOECD加盟国38か国中、13番目に高いです。
ひとり親の貧困率はOECD加盟国中ワースト1位です。
さらに、世界規模の課題について国際的な話し合いを行う場であるG7の、参加国7か国のうち、日本のひとり親世帯の就労率は圧倒的に高いのですが、同時に、貧困率も高いのです。
先に見たように日本のひとり親家庭は、約88%が母子家庭です。働いているにも関わらず貧困率が高いことは、男女雇用格差の問題と切り離せません。男性所得の中央値に対する男性と女性の所得中央値の差である「男女間賃金格差」は、OECD加盟国中ワースト4位です。
「子どもの貧困」はどのような影響がある?
子ども一人の家庭では、平均して月間26万円の支出があります。(「2019年全国家計構造調査 家計収支に関する結果」)
年間だと、約310万円の支出です。賃貸の場合さらに、平均で月約5〜6万円の賃貸料もかかってきます。
では、年収300万円に満たない世帯はどのようにしてやりくりしているのでしょうか。年収が低い世帯ほど、家計における、食費・水道光熱費の占める割合が高くなり、教育・教養娯楽の割合が著しく低くなります。さらに、年収200万円未満の世帯は、食費が平均よりも月2万6千円低い状態です。切り詰めながら、なんとか食費や水道光熱費を捻出している状態であることが想像できます。
お金がないということは、単なる経済的な格差の問題にとどまりません。生活習慣が乱れたり、食生活が乱れたりすることで健康を損なうことも増えます。学習習慣が身につかないなどの理由で進学の機会を失いやすくなります。経験が不足するといったことにも繋がります。
健康格差
お菓子よりも野菜などのほうが身体には良いと思います。でも経済的にゆとりがない家庭は、ゆとりがある家庭よりも、肉・魚・野菜・果物・大豆の摂取量が減ってしまうようです。
一方、菓子や菓子パンを毎日食べる子は、生活にゆとりがない家庭に多く、乳幼児のうちにインスタント麺やカップ麺を食べたことがある子どもは、ゆとりがない家庭に多いそうです。(厚生労働省「平成27年乳幼児栄養調査」)
一見すると、菓子や菓子パンは嗜好品で、インスタント麺などは自炊よりも割高であることも多いと感じてしまう方もいらっしゃるかもしれません。しかし、お金のない中でなんとかおなか一杯に食べさせてあげたいと考えると、菓子パンなど一つでカロリーの高いものを優先してしまったり、ひとり親家庭で、親が働いている間に子どもが一人で食事を摂ることを考えると、やはりパンやインスタント麺などが手軽になってしまうことが想像できます。(参考:NHKスペシャル取材班『健康格差』,講談社新書,2017)
また、健康状態の調査においては、貧困世帯の親の29%は「普段の健康状態が悪い」と回答しており、貧困でない世帯の倍の比率であったそうです。(参考:相対的貧困世帯と親及び子の行動と意識 東京大学社会科学研究所教授 石田 浩)
参考にした論文では、子どもの健康状況は、貧困世帯と貧困でない世帯とで有意な差は見られなかったようですが、一緒に暮らす親の健康状態は、子どもにも何らかの影響があると思われます。
学歴格差
日本社会では、学歴が生涯年収に影響してしまいます。
貧困と学歴の関係が明確に示された調査もあります。1994年から2002年の9年間の間に、対象とした若年女性を追跡調査したところ、中卒では9年間継続して所得が貧困線以下の人が36%になりましたが、大卒・大学院卒では5.3%にとどまったそうです。(参考:阿部彩『子どもの貧困』岩波新書,2008 家計経済研究所の調査による)
また、子どもの学歴についての親の考え方も、世帯年収等によって違いが現れます。世帯年収が低い家庭の親ほど、子どもの進学は高校まで、と考える割合が高くなります。
親の学歴はそのまま収入の差にもつながることも多く、また子どもの学歴についての考え方等にも違いが現れ、子どもにも影響があるといえるでしょう。
体験格差
経済的な格差は、スポーツや音楽、習字といった習い事など、スポーツや文化芸術活動、川遊びなどの自然体験、動物園や水族館に行くなどの文化的体験の格差にも繋がります。
子どもがやってみたいと思う学校外の体験を、経済的な理由でさせてあげられなかったと答えた親の割合も、世帯年収が低いほど多くなります。
このように、家庭の経済状況は、子どもの生活習慣や食生活、学習の機会、勉学以外の体験など、多角的に影響をします。結果として、貧困下で育った子どもたちは、進学の機会や就労の機会を失いやすく、貧困は世代を超えて連鎖してしまうのです。
※4:同調査では、世帯人数別の貧困線を勘案し、低所得世帯を世帯年収300万円未満と定義しています。
行政が行う「子どもの貧困」対策とは?「ひとり親家庭」に対する手当や補助はある?
このような状況に対して、行政も様々な取り組みを行っています。
経済的な支援
・申請方法:年末調整や確定申告
合計所得が500万円以下の場合、所得税35万円、住民税30万円の控除が受けられる。また、合計所得が135万円以下の場合には、個人住民税は非課税となる。
前年の合計所得額が135万円以下であれば、全額免除。
・申請窓口:市区町村の児童福祉を担当する窓口
一定金額の手当の支給を受けることができる。
・申請窓口:市区町村の児童福祉を担当する窓口
一定金額の手当の支給を受けることができる。
・申請窓口:市区町村の担当する窓口
一定金額の手当の支給を受けることができる。
・申請窓口:市区町村の窓口
就学資金を初めとした12種類の資金からなる貸付制度。
・相談窓口:居住地の市または都道府県
対象教育訓練を受講した場合、その経費の一部が支給される。対象講座は都道府県によって異なる。
・申請窓口:市区町村の福祉事務所
日本国憲法第25条に定める生存権 を保障するための具体的な仕組みで、必要最低限の費用 を公的に支出する制度。現在働いていても必要最低限の収入に満たない場合にはその差額を受け取ることができる。(参考:NPO法人 自立生活サポートセンター もやい 『生活保護制度 申請ガイド』)
医療費の助成
・申請窓口:市区町村の担当窓口
乳幼児が病院・診療所・薬局等で健康保険証を使って診療や薬剤の支給を受けた際、年齢に応じ、保険診療の自己負担全額または一部を助成する制度。
・申請窓口:市区町村
医療費の自己負担金額を軽減する制度です。市区町村によって利用できる範囲や金額が異なる。
教育費の助成
・相談窓口:通学している学校か教育委員会か、市区町村の学校教育を担当する窓口
学校で必要な費用(学用品費、修学旅行費、学校給食費等)を支給する制度。
・相談窓口:高等学校や市区町村の担当窓口
授業料以外の教育費を支援する制度。
住宅手当や、住居を確保するための施策
・相談窓口:市区町村の生活困窮者自立相談支援機関
一定期間家賃相当額を支給し、生活の土台を整えたうえで就職に向けた支援を行う。
情報提供や入居支援等を行う制度。国土交通省の「セーフティネット住宅情報システム」から情報を探すか、居住支援法人や居住支援協議会に相談できる。
・申請窓口:都道府県または市区町村の住宅担当窓口
公営住宅への入居時に有利な当選率で抽選を受けることができる。また、経済的な事情により家賃の負担が困難な場合に家賃が減免される。
困ったときに相談できる場所など
・相談窓口:市区町村の担当窓口
就労相談・生活相談・養育費相談などを行う。
・申請窓口:市区町村の窓口
就学や病気等の理由により一時的に生活援助、保育などのサービスが必要にあったときにヘルパーを派遣して生活支援を行う。
私たちにできること
行政の公的なサービスは、決められた手続きに基づいて申請し、審査を経て初めて利用可能となります。申請そのものの難しさも問題視されていますし、審査も厳しいです。例えば、生活保護については捕捉率(本来生活保護を利用できる人に、制度が届けられている割合)という考え方がありますが、日本は20%未満で、欧米諸国は60%以上です。(参考『生活保護「改革」ここが焦点だ!』あけび書房 出所:日弁連パンフレット)日本は捕捉率が非常に低いのです。これは、制度があっても、必要な人にきちんと届いていない状況を示しています。
さらに、公的なサービスでは緊急性がある場合なども対応が難しい場合も多いです。個々人の抱える問題に個別に柔軟に対応することが難しいからこそ、インフォーマルな資源である民間のサービスなども大切になります。
月1000円からの寄付で、子どもの貧困と向き合う団体を応援する
NPOなど民間のサービスは、主に寄付を資金に非営利で運営している事業が多いです。寄付をするだけでも、間接的に、困っている子どもたちを助けることができます。
食事を届けることで子どもを支える:グッドネーバーズ・ジャパン
お腹が空いている子どもに食べさせてあげられない親の気持ちを、想像してみてください。子どもに申し訳なく思いながら必死で働き、それでも収入が足りず不安な気持ちや、悲観的な気持ちになることは、想像に難くありません。
グッドネーバーズ・ジャパンは食品配付プログラム「グッドごはん」で低所得のひとり親家庭を応援する団体で、1万円分の食品を届けています。食品の支援が家計の助けになり、子どもの学用品やお誕生日のプレゼントを買えたというシングルマザーの方の声も寄せられています。さらに、自分たちを気にかけ、手を差し伸べてくれる人がいることがひとり親家庭の親子の大きな支えになります。
毎月の寄付で活動を応援する「国内こどもスポンサー」を1年間続けると、4世帯の家庭に食品を届けることができます。ひとり親家庭の親子を支えたい、と考えている方におすすめです。
編集部オススメのポイント!
低所得のひとり親家庭を対象に、定期的に無料で食品を配付しているのが、認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパンです。
> 団体公式サイトで詳しくみる
寄付金控除の対象団体です
困窮している子どもの居場所や、学習機会の場を提供する:カタリバ
生活が困窮している家庭では、学習環境に恵まれず勉強についていけなくなったり、進学を諦めたりしてしまう子どもたちもいます。ひとりで悩みを抱え込んでしまったり、周りと比べて「どうせ自分なんて」と自信をなくしてしまったりしている子どももいます。
カタリバは困窮する子どもたちをはじめとした、自己肯定感が低く、将来への希望が持てない小学生から高校生への支援として、学習支援や居場所づくり、体験プログラムの運営などを行っています。学校とも家庭とも違う、自分を受け入れてくれる場所があることが子どもたちの大きな支えになります。
月1,000円の寄付を1年間続けると、生徒2人に1か月間、授業を届けることができます。学生が貧困を脱するだけでなく、生き生きと毎日を送るための手助けとして、カタリバの活動を寄付で応援してみませんか。
編集部オススメのポイント!
子ども達が夢をあきらめないですむように、学習サポートや心のケアを行うのが、認定NPO法人カタリバです。
> 団体公式サイトで詳しくみる
寄付金控除の対象団体です
学校外での学びの機会を提供する:チャンスフォーチルドレン
貧困の世代間連鎖”を、「スタディクーポン」という仕組みで断ち切ろうと活動しているのが、チャンス・フォー・チルドレンです。「スタディクーポン」とは簡単にいうと、塾や習い事など子どもの学習だけに使える、クーポン券で、現金給付とは異なり使途を教育サービスに限定するので、子どもたちの学びのために確実にお金が届きます。
しかし、資金が足りていません。毎年学ぶ意欲の高い子どもたちから支援の応募が殺到しますが、多くの子どもたちが落選せざるを得まないそうです。2021年度は、定員365人に対し、過去最多1,902名以上の子どもから応募が寄せられ、1,500名以上の子どもたちが落選してしまったとのこと。チャンスさえあれば成長していく可能性を秘めた子どもたちを支えたいと考えている方に、ぜひ寄付で応援いただきたいです。
編集部オススメのポイント!
「家庭環境にかかわらず、子どもがやりたいことを応援したい」
「貧困の連鎖を断ち切れるのは、教育の支援だと思う」
こんな風に感じていただけた方は、ぜひHPもご覧になってみてください。
> 団体公式サイトで詳しくみる
寄付金控除の対象団体です
ボランティアやプロボノとして参加する
事業を継続していくためには、共に運営をしたり活動にしたりしてくれる人も不可欠です。ご紹介した団体も活動に参加してくれるボランティアの方を募集しております。まずは現場で活動したい方や、自分のスキルを活かして運営をサポートしたい方はぜひ、ボランティアやプロボノの活動を探してみてください。
問題に関心を持ち、地域や職場等で、できることを考える
「子どもの貧困」はどこか遠い国、遠い地域で起きていることではなく、今現在、私たちが生きるこの社会で起きていることです。自分の地域、自分の隣家の人たちと繋がりを持ったり、職場の同僚で困っている人がいないか気を配ったりするだけでも誰かの力になるかもしれません。公民館などで行われる地域のイベントに参加したり、職場の給与体系や雇用形態のあり方を見直してみたりなど、できることを考えてみるだけでも小さな社会貢献になります。
「子どもの貧困」の問題を人に伝える
少しずつ社会で取り上げられることも増えてきたとはいえ、まだまだ困っている人がたくさんいます。「子どもの貧困」の問題をより多くの人に知ってもらい、関心をもって小さくとも何らかの行動に移す方が増えるだけでも、少しずつ社会は良くなります。ぜひ、「子どもの貧困」について、ご家族や友人と話をしてみてください。
今回は日本の「子どもの貧困」について詳しくお伝えいたしました。保護者と子どもたちが困窮した背景はそれぞれです。親が病気になったのかもしれないですし、障がいをおったのかもしれません。言葉の壁があったのかもしれません。
目に見えた分かりやすい理由があれば支えてあげても良いかな、目に見えて貧困で”かわいそうな状態”であればサポートしてあげようかな、と無意識でも考えてしまう人もいるかもしれません。でも、目に見える分かりやすい困窮した理由がないことも、困っていることが見えづらいこともあります。人には自分が置かれてみないと分からない複雑な事情が色々とあるものです。
何より、子どもは生まれ育つ環境は選べません。事情は何にせよ、今困っている人がいるのであれば、助け合える社会になったら良いなと思っています。
今は私はボランティアなどを行うには時間が足りないため、寄付をすることと、地域の人とのつながりを深めることで、少しでも良い社会に近づけていけるよう、できることを続けたいと思います。