日本でも積極的な広報活動を展開しているため、その活動に関心を知っている方も多くいらっしゃると思います。
私は、国境なき医師団(MSF)への「毎月の寄付」(マンスリーサポーター)に申し込むにあたって、団体や活動、寄付金の使い方について調べましたので、皆さんにもシェアしますね。
いとうせいこうさん(小説家)のルポ「『国境なき医師団』を見に行く」で印象的だったエピソードも交えて解説します。
目次
国境なき医師団とは?紛争や自然災害などに緊急医療支援
アジア・アフリカなど70の国で活動
2021年には、 72の国と地域で、約4万6000人のスタッフが活動しました。
日本事務局は1992年に発足。2021年には国境なき医師団日本から、31の国・地域へ90人(のべ106回)の派遣が決まりました。
(国境なき医師団 WEBサイトより)
主な活動は、診察と治療(外科・栄養失調・産科など)や病気の予防(予防接種など)、心理・社会面の支援(心理ケアなど)など。
その範囲は、「清潔な水の確保、食糧・生活用品など緊急援助物資の配給、病院の再建や運営支援、病気にかかるリスクを減らすための健康教育」にも及びます。
ノーベル平和賞を受賞。日本にも拠点
このような実績が評価され、1999年にはノーベル平和賞も受賞したそう。
日本でも「特定非営利活動法人国境なき医師団日本(認定NPO法人)」を、1992年に設立。
東京都新宿区に事務局を構え、「ファンドレイジング(寄付金募集)」と「スタッフ(医師や看護師など)の採用」、「証言活動」の3つに取り組んでいるとのことです。
リアルな活動現場は?いとうせいこうさんの本で、印象に残ったこと
そのリアルな実態は、寄付をしている方や支援を検討している方には、なかなか実感しにくいかもしれません。
私もその一人でしたが、「毎月の寄付」での支援を決めたプロセスのなかで、掘り下げて調べてみることに。
有名な作家、いとうせいこうさんのルポ「『国境なき医師団』を見に行く」という本を読んでみました。
印象に残った点を、エピソードとともにご紹介すると・・
ポイント1:「独立・中立・公平」を守るための、徹底的な安全確保
反政府勢力との間での内戦が勃発している地域、ギャングや武装集団などが跋扈して治安が不安定な地域など。
そんな危険とも言える環境下では、武力をそなえた特定の勢力の保護を受けながら活動するのが、安全を確保する早道でしょう。
ところがそれでは、理念である「独立・中立・公平」を実現できません。
そこで、政治的な中立を守ったうえで、スタッフの安全を確保するために、徹底的な安全管理をしている様子が伺えました。
どのような勢力であれ、「国境なき医師団」は医療を拒まない。だからこそ、どのような勢力であれ武器は放棄せねばならない。そのことは以前にも書いた。院内での対立は絶対にあってはならないからだ。患者や医師たちが紛争に巻き込まれることになってしまう。(「『国境なき医師団』を見に行く」より)
ポイント2:限られた資金で一人でも多くを助けるための、「ロジスティック」へのこだわり
「国境なき仁術団」には医師、看護師だけがいるのではない。
我々を安全に送り迎えしてくれる輸送、そして薬剤などを管理する部門、そして建物を造ったり直したり、水を確保するべく工事をするロジスティックがいなければ、医療は施せないのだ。(「『国境なき医師団』を見に行く」より)
ポイント3:人々の「尊厳を守る」ために、多大な配慮をしていること
患者になる人はたいてい英語を話せない。
さらに宗教的な都合を持っている。女性がしてはならないことがある。
治療者側がよかれと思っても、ケアを受ける側がまた抑圧だと感じてしまってはいけない。
(「『国境なき医師団』を見に行く」より)
そういった背景から、「言葉を通訳し、それぞれの慣習を医師に説明し、また患者にこちらの支援方針や内容を理解してもらう」のを役割としているそうです。
合計 40 人のスタッフのうち、「医師は3、4人、看護師7人、文化的仲介者がなんと 14 人」というほどに重視されているそう。
さらに、仮設住宅に入れても「子供がストレスで不眠に」「家族の中でのいさかいが絶えなくなる」「自分たちがどこに安らぎの場所を求めればいいかわからなくなっている」といったなかで、不安が募っていく状況もあったそう。
そこで心理ケアに従事するスタッフも配置しているそう。
日本で集まった寄付金の収入と、使い道は?
日本だけで、115億円近くの寄付収入。その多くは個人から
WEBサイトで公開されているデータによると、2021年度の総収入は119.3億円。
そのなかで特長的なのが、「個人を中心とした民間からの寄付金が93.7%を占めている」ことです。
(出典:国境なき医師団 活動資金ページ より)
MSFが強くうたうのは、「独立・中立・公平」な立場であること。
紛争地で政府や反政府勢力の意向に左右されずに、困っている方に医療を届けるために、政府や公的機関からの資金援助をほとんど受けておらず、民間からの寄付で活動資金を賄っているそうです。
(さらに、製薬メーカーなどのビジネス上の利害に翻弄されずに公平な立場を貫くために、寄付のうち90%近くを法人ではなく個人から集めているという徹底ぶり。)
「使途を指定しない」で募るのは、緊急支援にそなえるから
その寄付ですが、MSFはほとんどの場合、 使途をしないで募集しています。
寄付というと、「シリア難民支援のため」「この物資を届けるため」といったように、使い道を指定して募られる場合もあります。
支援者からすると、「何に使われるか?」が分かりやすいのでお金を出しやすく、資金も集まりやすい傾向があります。
一方、地震や台風など災害や、戦争・紛争や疫病などの災厄は、「いつどこで発生するのか?」を予測できません。
MSFは、「48時間以内に緊急事態に対応」して「命の危機の現場に向かう」チームを持っていますが、物資の運搬やスタッフの渡航などにかかる費用は、後で支払う訳にはいきません。
あらかじめ手元に十分な資金がないと、「いざ」という時に支援に向かえないのです。
そこで大事なのが、「使途を指定せずに」寄付金を集めること。
毎月1,000円〜の寄付を集める「マンスリーサポーター」など継続的な寄付の募集にも力を入れているのも、同様の理由からだそうです。
82.7%が「ソーシャル・ミッション費」に
そのように集まった資金は、「MSFオペレーション事務局」を経て、活動地に届くそう。
2021年度は、総支出119.2億円のうち82.7%が援助活動費(人道援助プログラム支援金+スタッフ募集・派遣、研究・開発等)と広報・アドボカシー活動費を合わせた「ソーシャル・ミッション費」に使われているとのことでした。
(出典:国境なき医師団 活動資金ページ より)
この「ソーシャルミッション費」という区分は、初めて見たときには個人的にはよく理解できませんでした。
MSF日本は、医師や看護師などスタッフの採用・派遣や証言活動もミッションとしています。
したがって「それらを現地の援助活動への拠出分と合わせて、直接的な活動に使った資金という意味で、このような区分にしているのでは?」と今では推測しています。
最後に:「善意が持つ力」がつながり、誰かに届く
「ロジスティック」へのこだわりにおいても紹介したように、大規模なヒトとモノの素早い移動を支えるのは、寄付によって事前に提供されている資金。
「国境なき医師団を訪ねる」の本で紹介されていたのですが、ハイチでロジスティクスを担当していたスタッフ(ジョンシルさん)にドナーへの想いを訪ねたとき、「顔つきが一変」しながら答えた言葉が心に残りました。
世界各地にMSFが一番乗りして困っている人を救援出来るのは、寄付して下さる人がいるからです。
皆さんが思ってらっしゃるより、その力って凄いんです」
これは実際にお金の動きを見ている物資調達関係者だからこその実感に違いなかった。彼女たちはそこにお金がなければ医薬品も手術器具もテントも水も届けることが出来ないの
(「『国境なき医師団』を見に行く」より)
そうすると疲れてるからなのかなあ、どうしても泣いちゃうんです。感動して。支援者の方にもそれぞれストーリーがあって、あたしたちにもあって、そういうものが全部つながってドライブされて、それが活動になっていくんだなってわかって(「『国境なき医師団』を見に行く」より)